オオワシ捕獲大作戦(1995年です)

風露荘は風蓮湖近くの鳥好きの宿。作家でナチュラリストの高田勝さん経営の
民宿だ。オオワシ捕獲の司令所はこの風露荘である。今年は環境庁が山階鳥類
研究所と日本野鳥の会にオオワシの捕獲と衛星追跡を委託したもので、衛星追
跡用のアルゴス送信機はNTTが無償で提供したものである。この送信機は私
が開発したもので、気圧と温度のセンサーが付いており、出力部を改良して電
池の寿命を従来の1.3倍にした優れものである。

風露荘には捕獲の責任者である山階鳥類研究所の佐藤さんが2月6日から滞在
して、高田さんとともに捕獲場所の選定と餌付けを行っていた。私と日本野鳥
の会研究センターの植田さんは10日に東京を出発する予定でいたが、オオワ
シがどんどん集まっているとの連絡をうけて植田さんは9日の第1便で釧路に
飛んだ。
私は予定通り、10日に釧路に飛び、風露荘には夕方6時半ころ到着した。1
0日は根室は吹雪いておりとてもオオワシを捕獲できる状況ではなかったそう
だ。皆さん3時起床でがんばったのでとてもお疲れの様子であった。車をずらっ
と並べるのはやめようとか、車の外へ出て3脚をたてて観察するのはやめよう
とか、反省点が出されていた。私は捕獲に間にあってハッピーな気分で、高田
さんの外国の鳥の話や、鳥の羽のコレクションを楽しんでしまった。

11日は4時起床で真っ暗な中、根室市友知の海岸へ行く。そこはいつも漁師
さんが魚を捨てる場所でオオワシがよく集まっているそうだ。ロケットネット
の火薬は夜には取り外すので、まず火薬の装着をする。50m程ワイヤーをの
ばして佐藤さんと高田さんが車にこもる。他は500m程離れた、現場が見ら
れる道路沿いに車を並べて車内から観察する。10時頃まで待つが、オオワシ
は上空を飛んだり堤防に止まったりするが、エサに集まるのはカラスとカモメ
ばかりである。オジロワシは着地せずに、エサだけさらって行く。

少し休憩して11時半頃戻ると、オオワシ7羽がエサに付いていた。やはり現
場から見通せる道路に車がならんでいるのが良くないのだろうということで、
連絡用の1台を残して他は1km程離れた漁港に移動する。漁港では行動は自
由なので、私は車の外へ出て一部凍った海を見るとコオリガモとクロガモがた
くさんいた。近くの崖沿いにはコミミズクがエサを探して行き来していた。3
時頃にはオオワシはねぐらに帰ってしまったので解散した。「この様子なら明
日はやるとしても7時半頃だな」と佐藤さんが皆に告げた。

12日も4時起床で現地に向かう。佐藤さんの昨日の言葉はオオワシを欺く前
にまず味方を欺く作戦であった。今日は100m程ワイヤーをのばし、建物の
陰に隠れた車の中にダイナモを置く。佐藤さんの指令車と日テレの車のみを5
00m程離れた道路に止めて、そこから隠れて現場が見えないダイナモ操作係
りの青木さんにトランシーバで発射の指示を出す作戦だ。昨日はカラスの動き
が異常であったと感じた佐藤さんの指示である。今日は日テレもカメラを車の
外へは出さず、他の車はすべて漁港へ待避している。6時半頃オオワシが集ま
り始めたとの一報が入り緊張する。3、2、1のカウントダウンを行い発射の
指示が6時38分に出た。大急ぎで現場に行くと、手前に凍った場所があり、
スピンしている車があった。

ネットには13羽のオオワシが捕獲されていた。三人一組で作業しろとの指示
であったが、一人でオオワシをつかもうとした青木さんが、2羽逃がしてしまっ
た。結局成鳥3羽、幼鳥8羽のオオワシが捕獲できた。カラスも8羽程ネット
にからんでいたが、中には死んだふりをしているやつもいた。捕獲したオオワ
シはジャケットにくるみ氷上に上向きに置くと観念したように鳴きもせずおと
なしくしている。順番に各部寸法の測定、足輪付け、染色体とDNA鑑定のた
めの組織採取、肩タグ付けが行われた。私は送信機を7秒毎にスタートさせ、
受信機で動作を確認する。全部で7台でパルス間隔は60秒なので、8秒毎に
スタートすればよかったのだが、なぜか7秒毎にスタートしてしまった。送信
機が順調に気温と気圧データを送信していることを確認して、年上順に送信機
を取り付ける。成鳥は4才以上で3羽、幼鳥は3才が2羽、2才が2羽である。
送信機は肉眼でも識別できるように、7色に塗り分けてある。また、肩タグに
は番号が入っており、個体識別が可能である。肩タグは両肩につけられており、
片方のオレンジ色は根室、他方のブルーは今年であり、グリーンは昨年である。
個体識別のための写真撮影の後に放鳥した。2時間近くジャケットにくるまれ
ていたせいか、オオワシはなかなか上昇せずやきもきさせられたが、なんとか
国道を越えてねぐらの方に飛んでいった。作戦は大成功であった。

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