タンザニア探鳥記 (1992.9.25〜10.9)


 日本を9/25の昼に発ち、オランダのスキポール空港の近くで1泊しました。6月に来たばかりですが、前回はテッセル島にしか行かなかったので、アムステルダムの町を少しだけ散策しました。歴史を感じさせる立派な建物がたくさん並んでおり、広い公園には大きな木がありましたが、あまり鳥はいませんでした。


アムステルダムの街並み


アムステルダム市内の公園

【タンザニアの首都ダルエスサラーム】
 アムステルダムからタンザニアの首都ダルエスサラームまではKLMの直行便で、9/27の朝9時過ぎにようやく到着しました。はるかなりアフリカといったところです。今回はJICAミッションに同行しての調査ということで、JICAメンバーと同じようにビジネスクラスでのフライトだったので、非常に楽でした。
 東アフリカは乾季の真っ最中であり、草はすべて茶色く枯れており、ほこりっぽいためか木も土ぼこりで茶色っぽくなっており荒涼たる大草原が拡がっています。ガイドブックには書かれていた外貨申告書の制度がなくなっており、両替商が公認されるなど、制度の改革が進んでいますが、場所によっては両替するドル札の番号をすべて控えるという気が遠くなるような作業をやっています。最初は銀行で両替しましたが、たくさんの書類を書かされてレートも悪いので、両替商で両替するようになりました。ホテルの窓から見えるビルはいずれも簡単な作りで、マーケットでは地面に果物などを積み上げて売っていました。


ダルエスサラームのホテルの窓からの風景


マーケットの様子

 首都で見られる鳥はイエガラス (House Crow) というちょっと小形で首が灰色のカラスです。コクマルガラスに似たキャーキャーという感じの鳴き声です。スズメはケニアアカスズメ (Rufous Sparrow)(オオスズメから分離) とハイガシラスズメ (Grey-headed Sparrow) がいます。ダルエスサラームは海岸にあるため、暑さは相当なものです。真上から照らす太陽の威力はすごく、南半球での季節は春というのに、昼間外に出るとくらくらします。地元の人がクリスマスツリーと呼んでいる羽状複葉で黄色の花が房状に咲いている木の並木道があちこちにあり、そこでは気持ちよく歩くことができます。


大きなクリスマスツリー


クリスマスツリーの花

 海岸ではアオサギとアオサギの頭上を黒くした少し小型のズグロアオサギ (Black-headed Heron) がグアオーと鳴いています。トビも飛んでいましたが、くちばしと足が黄色く尾の切れ込みが深く、日本のとは別のニシトビのようです。7月にサンフランシスコで1羽見たアフリカクロトキ (Sacred Ibis) はここでは沢山います。頭と首が黒く、留まっていると尾が黒く見えますが、実際には尾は白く、全風切りの先端が黒く縁どられていました。エジプトガン (Egyptian Goose) は目に大きくアイシャドーをした感じで、よくエジプトの絵に出てくる女性の顔のようで、飛ぶと翼の白い部分が目立ちます。他にシギ・チドリ類も沢山いましたが、野鳥の会のバードショップで買っていった東アフリカのフィールドガイドにはほとんど載っていませんでした。日本での記憶で言うと、ダイゼン、足とくちばしが黒いセイタカシギsp.、アオアシシギ、チュウシャクシギ、シロチドリ、コチドリ、胸が白いトウネンsp.、ハマシギ等でした。また、クロサギもフィールドガイドに出ていませんでした。全身がうすい灰褐色のススケカモメ (Sooty Gull) も見られました。


遠浅の海岸でクロサギが歩いている

 街を歩いていると、ヤシの葉に鳥の巣が沢山作られているのを見かけました。アフリカズキンコウライウグイス (Black-headed Oriole) という頭が黒くて体は黄色い鳥が沢山ジュリジュリと鳴きながら出入りしていました。地面では顔の赤いカゲロウチョウ (African Firefinch) が餌をついばんでいました。


ヤシの葉にアフリカズキンコウライウグイスの巣が沢山ある、左上に1羽写っている

 ここでは橋の近くは立ち止まることが禁止されており、川べりで鳥を見ていたら、カービン銃を持った警官に連行されそうになりました。橋から少し離れていたので大目に見てくれましたが、社会主義国では特に注意がいるようです。


(1)ダルエスサラーム、(2)ミクミ国立公園、(3)モロゴロの町

【ミクミ国立公園】
 首都から離れて、ミクミ国立公園へ調査に行きました。業務命令でサファリに行ったわけです。しかし、ガソリン節約を旨とする私にとっては胸が痛む旅になってしまいました。公共輸送機関はないに等しく、国立公園内では歩行や自転車は危険なため禁止されています。どこにライオンがいるかわからないので当然です。やむを得ず運転手付きのランドクルーザーで出かけました。


ミクミで泊まったロッジ、左の4000ccのランドクルーザで行った

 国立公園に入るともう野生動物は国道沿いでもあちこちに見られます。唯一のロッジの窓から見ると、一面の原野で池が一か所あり、ゾウがいつも水浴びに来ていました。夜中になんだか音がするので、電灯で照らしてみたら、すぐそこにバッファローが来て草を食べていました。


ロッジの窓からの景色、池でゾウが水浴びしている

 こちらではカラスはムナジロガラス (Pied Crow) になり、白いベストを着たハシボソガラスといった感じです。ロッジの近くの木にはアフリカハゲコウ (Marabou Stork) という頭がはげてのどに大きな肉垂れがある、背の高さが1m以上もある鳥が沢山留まっています。地上のものは、近づくとゆっくりと歩きました。


ロッジの庭の木、アフリカハゲコウが沢山留まっている


アフリカハゲコウはあまり人を気にしません

 ゾウの調査をすることになっていたんですが、鳥がいるたびに車を止めるので運転手は面食らっていたようです。次第になれると、彼は抜群に目がいいので、よく鳥を見つけてくれました。しかし、車の中から鳥を見つけるのは大変です。蚊やハエが危険なので窓もなかなか開けられないので音を聞くことができません。したがって、水辺を狙いました。水辺ではやはりいろんな鳥を見ることができます。水面は水草でびっしりおおわれており、岸辺にはワニがおり、ときどき水草の間からカバが大きな音を立てて呼吸のために鼻を出します。水草の上にはアフリカレンカク (African Jacana) ヒメレンカク (Lesser Jacana) という2種のレンカク類が歩いています。このレンカクは足の指が長く、水草の上を歩くのに適応しています。アフリカレンカクは目の上が水色でとてもきれいな鳥でした。バッファローの首筋にはキバシウシツツキ (Yellow-billed Oxpecker) が留まってつついてました。


レンカク類が歩いている水草、カバの鼻が見えている

 この池はカバがいるのでHippo Poolと呼ばれています。次の日もそこに鳥を見に出かけたところ、ライオンがバッファローを殺して食べていました。おしりと内臓を食べられたバッファローがころがっており、大変な迫力です。ここでは茶褐色のシュモクドリ (Hamerkop) という鳥がいます。全身こげ茶色でコサギ位の大きさですが、首をまっすぐ伸ばすと、首の後ろに羽が伸びてT定規のようになる面白い鳥で、ギーギー鳴いて飛んでいきました。


ライオンに途中まで食べられたバッファロー

 全身がかがやくブルーのセイキムクドリ (Blue-eared Glossy-Starling) や、それより大きいライラックニシブッポウソウ (Lilac-breasted Roller) は本当にきれいな鳥です。このライラックニシブッポウソウはハトより大きく、カワセミの背中に見られるような輝く水色の尾を扇子のように拡げて、そのふちを少し濃い色でふちどった感じでよく飛んでいるのが見られました。くちばしが太くて長く下に曲がったハイイロコサイチョウ (Grey Hornbill) ミナミジサイチョウ (Ground Hornbill) も目立つ鳥です。水辺では少し上に反ったオレンジ色のくちばしを持つ人間と同じくらいの背丈のクラハシコウ (Saddlebilled Stork) や、バッファローの死体のところにはハゲワシの仲間が3種類ほど集まってきました。コシジロハゲワシ (White-backed Vulture)ズキンハゲワシ (Hooded Vulture) ミミヒダハゲワシ (Nubian Vulture) 等です。


ライオンの向こうにクラハシコウがいる


上空を飛んでいるハゲワシsp.?

 乾いた草地ではクロハラチュウノガン (Black-bellied Bustard) がとことこ歩き、ケリに似たシロビタイゲリ (Senegal Plover)オウカンゲリ (Crowned Plover)ミスジチドリ (Tree-banded Plover) 等がキキッと鳴いて飛び立ちます。

 鳥を見るには水辺に限るのですが、乾季の最中で川や池はほとんど乾いてしまっています。それでも、国道沿いに1箇所見つけました。冠羽があるカンムリカワセミ (Malachite Kingfisher) 、ニワトリより大きく顔と首が青くて赤いとさかで、体は真っ黒な地に銀色のラメがキラキラ輝く、なんとも神秘的なホロホロチョウ (Helmeted Guineafowl) が数羽いました。天窓を開けてこれらの鳥を見ていたら、運転手が叫ぶのであわてて首を引っ込めました。いつの間にかキイロヒヒ (Yellow Baboon) が集まっており、一頭が石を投げようとしていたそうです。落ちついて鳥も見ていられません。


近くに寄ってきたオウカンゲリ

 草原のあちらこちらは人工的に焼き入れされています。こうすると一雨くると草がさっと育つんだそうです。また、害虫の駆除にも役立っているようです。枯草が沢山残っているところでは蚊やハエが多く、窓も開けられません。マラリヤやツエツエバエの危険があるからです。いつもは徒歩か自転車で探鳥するので鳥の気配で見つけることができるのですが、このような状態では車から一歩も出られないので鳥を見つけるのは非常に困難です。色鮮やかな鳥や大きい鳥しか見つけられません。


大きな木の枝先に小鳥が留まっている

 飛び立った大きな鳥は足がとても長く見えました。


足がとても長く見えた地面から飛び立った大きな鳥

 木の上に留まっていた大きな鳥は腹部が白かったので、ヨゲンノスリ (Augur Buzzard) と思われます。


ヨゲンノスリと思われる

 ゾウが近寄ってくると恐怖感がわいてきます。運転手は決してエンジンを止めません。万一エンジンがかからなくなると、外へ出て修理するのが危険だからです。子連れのゾウの集団は遠くから見ないと特に危険だそうです。


近くに寄ってきたゾウ


子連れのゾウの集団

 雌ライオンは昼間は木陰で寝そべってます。ライオンの雄はなかなか見られないので、見つけたときは運転手が「シンバ!」と叫びます。シンバはスワヒリ語でライオンのことなのです。シマウマは近寄れて、とてもきれいです。キリンの口が届くところまで木の葉が無いのがわかって面白かったです。


木陰で寝そべっている雌ライオン


草原を1匹で歩く雄ライオン


綺麗なシマウマ


キリンと下の葉を食べられた木

 今回のミッションでは、ヌー(ウシカモシカ)の大群の移動を見たがる観光客が多いので、ヌーの大群の位置をリアルタイムで表示できるようにするシステムの開発を打診されていたので、ヌーは特に熱心に見ておきました。あまり大きな群れはいませんでしたが、野生のヌーの行動を観察することができました。


ヌー(ウシカモシカ)の群れ

【帰途、モロゴロ付近の湖等】
 帰りにはモロゴロ近くの湖に立ち寄りました。ここでは丸木舟で漁をしていました。大きなフナのような魚が400sh(120円)だそうです。運転手が2匹買ったら、その場で内臓やウロコをナイフでとってくれました。ここにはコシベニペリカン (Pink-backed Pelican) とウの仲間が2種類、カワウとアフリカコビトウ (Long-tailed Cormorant) 、ヤマセミに似たヒメヤマセミ (Pied Kingfisher) 等がおり、茶色で白い線状の斑が入ったカッコーの仲間マミジロバンケン (White-browed Coucal) やオオヨシキリに似たオオアシナガヨシキリ (Greater Swamp-Warbler) がアシの茂みで見つかりました。(このコシベニペリカンは2005年に熊本市の江津湖に出現することになります。)


漁に使う丸木舟


参考写真:2005年に熊本市江津湖に出現したコシベニペリカン

 水溜りがあると車を止めて鳥を探しましたが、もう一ヶ所は刑務所の横だからということで撮影禁止でした。しかし、刑務所のクラブでトイレを借りることができました。ここではほとんど真っ黒で角度によりブルーに輝き、くちばしが下に曲がったワキアカタイヨウチョウ (Superb Sunbird) がチッチッチリリと鳴いています。アフリカセキレイとでもいうべきハジロハクセキレイ (African Pied Wagtail) はセグロセキレイの目の後ろに白い部分を少し付け加えたような顔をしています。何度もあちこちで見たんですが、声を聞くことができませんでした。小さなカワセミの仲間、ヒメショウビン (Pygmy Kingfisher) は鮮やかなオレンジ色のくちばしが印象的です。ふと足元に1m以上ありそうな大トカゲを見つけてギョッとしました。この辺にはライオンはいないにしても、何がいるかわかりません。

 こうして4日間車で見て回った結果、使った燃料は200リットルでした。往復のジェット機には50時間近く乗っており、これもすごい燃料消費だったでしょう。動物を見るにしても探すのが大変で、ライオン等の人気がある動物がいると車が取り囲んでいます。自分が行っておいて言うのはなんですが、サファリというのは無駄が非常に大きいものです。動物を見るなら動物園の方がよいなと動物園の価値を再発見したような思いがします。しかし、野生動物は生き生きしてとってもきれいです。

 タンザニアは世界の最貧国と言われているそうですが、確かに貧しい国です。テレビ放送がザンジバル島のみで、本土には無い! ホテルがケチって部屋にテレビが無いのかと思っていたら、テレビ放送が無かったとは! 公園などにはゴミが結構ありますが、空き缶はありません。ジュース、ビールはすべてビン入りで、すべて再利用されているようです。金持ち外国人だけが輸入の缶ビールを飲んでいます。これはビンを洗う水がきれいでないので、ときどき泥が入っているからだそうです。私もタンザニア製のビール (Safari Beer) を飲んでみましたが、ビンにはラベルがなく、一口飲んだときプンとアルコールの匂いがしました。しかし、味はまずまずでした。商社の駐在の方は食料品に対する支出のうち9割がビール代だと言っていました。つまり野菜等は非常に安いわけですが、これは、日本人の感覚で、月収が数千円あれば良いほうのタンザニアの人々の暮らしは苦しいようです。

 タンザニア側は社会インフラの整備に援助の金を使いたいので野生動物保護のミッションを送り込もうとする日本側と意見がなかなか合いません。これも現地に行ってみると確かにそうだなと納得してしまいます。南北問題の困難性を実感する旅でした。

 帰りのフライトはBAだったので、ロンドンのヒースロー空港の近くのホテルで一泊しました。飛行機に乗ったときに「文明世界に戻ったな!」と思ってしまいました。


ロンドンの二階建てバス


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